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漁師町ぶらり 食と笑顔を訪ねる海岸線の旅

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#11 答志島行き
梅雨明けに待ったをかける台風が、高温多湿を抱えたまま南方海上にあった。その辺りを目指すかのように、紀伊半島を南下。鳥羽港に着くと不快指数まで煮えたぎったか、愛車のエアコンがパンク、運転席の窓までが開かなくなってしまった。修理は後回しにしてフェリーターミナルに車を置き、答志島行きの船に飛び乗る。
片道30分程度の船旅は、通学の高校生や通勤客が利用する水上バスで片道520円。周囲26?の小さな答志島には和具港もあるが、目指すは答志港だ。
3年前に訪れたときに、出会った人々のやさしさが忘れられない。
写真写真
写真写真 小さな桟橋に定期船が着くと、家族が軽トラで迎えにきていたり、商店は仕入れた商品を船から下ろしたりと忙しい。人々がそれぞれに散ってしまうと、灼熱の太陽がまるで1人を標的にしたかのように容赦なく射ってくる。
朝に東京を出て運転のしっぱなしだ、まずは喘ぐ胃袋に冷たいビールを流し込みたい。そこに"ロンク"なる矢印を発見して、路地をのぞき込むと懐かしいロンクの赤提灯が見えた。
「久しぶりやね、なんや今日は、テレビカメラかいな?」
オバチャンの飾らない物言いに、すっかり安心。
ビール2本目を開けたころに、何やら小皿を出してくる。見つめれば生ウニであり、海女であるオバチャンが採ったそのまま。一箸つまんで、口に入れる。普通のウニが、普通でないのが答志島の妙な魅力だ。水気が落とされて旨味が凝縮しているのだろうか、この生ウニは富山の川漁師宅でいただいたカニ味噌に匹敵するほど旨い。
「岩ガキかね、港にツルクシテあるんで、持ってくるわ」
"ツルクシテ"は"吊るして"の意味に、スタッフもビックリして大笑い。漁港についていけば、確かにロープで吊るしてあるのだった。
漁港にはカキ漁師の親子がいて、こちらは船で海に沈めてある岩ガキを引き上げに行く。たくましい息子は潜り手で、男はさすがに海女ではなく海士と呼ぶのだそうな。
頼まれた岩ガキを手にぶら下げて、また路地裏に入り込む。家は潮風をよけるように密集して建てられて、細い路地が迷路のように走っているのだ。そこは子供達が遊び、ドブが流れ、台所でもある。漁師夫婦が晩のおかずにでもするのだろうか、売れそうもない小魚を下ろしている。
それを見ている老婆は、お隣さんだろうか。暑いね…などと話しながらも、涼しい風が抜けていくのだった。
写真写真
写真写真 答志島の岩ガキは、圧巻である。1個で1?もある、特大がいい。
特大の殻をエンヤッと外すと、特大の中身がべろ~んと顔を出す。やや黄色みがかったミルク色は、たっぷりとして目を見張る。じっくり見つめたあとに、6等分くらいに切ってもらうと食べやすくなる。驚きは、切ってもエキスが流れないのだよ。
たっぷりとした1切れを口に運ぶ…旨すぎて声が出ない。
カキは海のミルクと言ったヤツがいたが、まさしく答志島の岩ガキだけには当てはまる。解禁は毎年7月1日、資源保護のため年間に15日だけしか採ることが許されない。それでも、昔はもっと大きいのがごろごろあった、と海女たちは嘆く。
島の海女は約150人で、最高齢の現役は80歳というから驚きだ。
裏話だが、撮影が一応終わると、スタッフは待っていましたと言わんばかりに箸をつかむ。
AD村っちぃは生ウニから攻めて、うめぇの連発。音声のトモちゃんは、どれどれと手を伸ばしてぴょんぴょん跳ねるだけ。言葉で表現できないほど、旨いのだ。
カメラの紀野さんは無言ながら、岩ガキの一片に狙いを定めていたようだ。口に含んでニンマリとすれば、ディレクターの加藤さんは目を丸くして嬉しさを全身で表現するも言葉が出ない。プロデューサーの海野さんは、高らかに笑うのみ。
とんでもなく旨かったのだが、映像で伝わっただろうか。
旨さの真実の表現って、難しいなぁ…。
写真写真
写真写真 翌日はぶらり、周辺を散策。
新港に抜けるトンネルは、島民の避暑場であり仕事場でもあった。タコつぼを掃除しているオジイチャンは、タコつぼにタコを住まわせて卵を産ませ、タコを増やしているらしい。
トンネル内は声がウォンウォン響いて、方言もあいまってはほとんど理解不能。笑顔をかけ合って、気持ちだけは通じてまた日射しの中へ。
そこは、シラスの水揚げ真っ最中だった。
大忙しのシラス入札場を小走りに過ぎると、若い男がしゃがみ込んで岩のようなモノを数えている。一面に広がる岩は、岩ガキだった。大きさで選別して、傷モノのチェックをしているようだ。
「岩ガキですかぁ、島の人はあまり食べません。傷モノも漁師に返すし…」
聞けば大きな岩ガキなら、1個が1300円前後。生業とする漁師なら、金に換えたいに決まっている。
昨夜の贅沢に少し心が痛んでも、答志島の太陽は容赦なく地上に反射して、旅人を責め立てる。
写真写真
 

 釣り曜日 西潟市場

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1953年 新潟県に生誕。
「食と笑顔」を人生のテーマに、旅と取材と執筆活動を続けている。
現在、アウトドア誌で「食」に関するエッセーや、日刊ゲンダイ「市場食堂で食う」(写真も)などを連載中。
 
   
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